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住職

坊主数珠つなぎリレー

坊主数珠つなぎリレー

国境を越えて、世代を超えて、繋がっていくお寺です

當麻寺の塔頭の一つ、護念院の住職をしております。

當麻寺御本尊の當麻曼荼羅は、中将姫が織りあげ極楽浄土に往生されたことで知られています。今年は、なんと国宝である1250年前の曼荼羅が寺外で一般公開されます。4月6日から奈良国立博物館で始まる「當麻寺展」です。そのほかにも各塔ら頭の寺宝が一堂に会する史上初の機会で、私もわくわくしています。

私はこの護念院で生まれ育ちました。学生時代に僧籍を取得後、大学を卒業してから、公立小中学校の教員をしています。30歳の時、香港に3年間日本人学校の教員として派遣されました。元々海外で働くことに興味があり、他国の文化興味があったのです。仕事や趣味のスポーツを通して多くの友人を得たことが、後の私の人生を豊かなものにしてくれています。

今でも海外から多くの友人がお寺を訪れ、お寺ステイをしています。みんな日本のお寺や文化に非常に興味があるようで、お勤めや掃除を一緒にすることもあります。友人の一人は、来るたびに「ここにいて、ただ景色を見ているだけで、とても心地いい」と言います。一言で言うと「ピースフル」だと。それを聞いて「この当たり前の日常を、もっと大切にしないといけない」ということに気付かされます。人としての有り様や生き方、大切なものへの感じ方といったものは、国や文化が違っても思うところは一緒です。

2005年に、教員としての勤めを続けながらも、護念院の住職を拝命しました。その後、大学院で更に異文化理解について学ぶ機会を頂きました。そこでは日本の内なる国際化に対する課題と現状を学び、夜間学級の存在を知りました。何らかの理由で義務教育を受けていない大人の方たちが学んでいる学校です。日本人の他に中国、タイ、ペルー、ブラジルなど様々な背景を持つ人達が通っています。言葉が読めない、書けない、話せないことは、日本社会で生活する日常に於いて、時には目に見えない大きな壁となることがたくさんあるのです。

「学校は宝や、言葉は命や」という言葉にも胸を打たれ、小学生の授業に夜間学級で学ばれている方をお招きしました。学校で学ぶ事の意味や大切さを、子ども達とともに、見つめ直したかったのです。そのご縁がきっかけで、今は、平日の午前中は住職としてお寺の法務を、午後からは教員として夜間学級に足を運ぶ日々を送っています。大学院在学時には、在日外国人の方々に日本語支援をしているボランティアグループの人たちとも知り合いました。この様な場では、教える側と教えられる側、どちらにも上下はありません。時には教える側になり、教えられる側にもなるのです。

これはお寺でも同じことが言えます。お檀家さんとの関係が特にそうです。お檀家さんの多くは人生の先輩であり、人への接し方、日々の暮らし方など、学ぶことがばかりです。それにお檀家さんは私の事を小さい頃からを知っている方ばかりなので、まったく頭があがりません(笑)。

そのお檀家さんたちや菩薩講の皆さん方と、最も力を合わせるのが、毎年5月14日に行われる當麻寺練供養会式です。中将姫が29歳で極楽浄土へ迎えられる様を現したものです。今年で1009回目を迎えます。護念院は「中将法如尼棲身旧跡所」として知られていますが、少なくとも江戸時代より、練供養会式の運営主体である菩薩講の取りまとめや、会式に使われる菩薩面、装束等の一切の管理を行っております。

この会式は25菩薩が極楽堂から娑婆堂へ中将姫を迎えに行く法会で、国の無形民俗文化財に指定されています。これを菩薩講の皆さんが演じます。4月29日には各講の代表者が護念院に集まられ、法要の後、くじを引いて練供養会式の配役を決めます。それから2週間、精進潔斎して頂きます。観音菩薩、勢至菩薩役の方々は、独特の所作がありますので、みっちり稽古を行います。

この菩薩講は各家で代々引き継がれていくものですが、幅広い世代の方々が集まり、世代を超えた素晴らしいコミュニケーションの場ともなっています。親の話は時として素直に聞けないこともあります。しかし、先輩諸氏からの話は素直に聞けるものなのです。世代を超えて繋がっていく。お寺がそんな場の一つになっていることをうれしく思います。

先代住職の時には菩薩講の皆さんのご尽力のおかげで、来迎橋や菩薩面が新しくされるなど、ハード面が整えられてきました。それらを受けて、私たちの世代がしなければならないのはソフト面、すなわち、人の心の持ちよう、有り様をどのように受け継ぎ、護り、伝えるかということです。ここ数年、若い世代の参加も増えつつあります。彼らと共に、この伝統ある菩薩講をしっかりと護り継いでいきたいと思います。

国境や世代を超えて、多くの方々と共にあるお寺。これからもそうありたいと願っています。

2013年4月号 「Yomiっこvol.136」『数珠つなぎリレー』掲載

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