地域の厳しい農事を支える会式と信仰
千年余りの歴史があると云われる「當麻寺練供養会式」。この会式の運営主体となるのが菩薩講という組織です。當麻寺の地元葛城市を中心に、香芝市、橿原市と広域に20余の組があります。その組織の中心なるのが菩薩講當麻組です。菩薩講の講員は、会式当日に菩薩役という大役を勤めます。それのみならず、会式を支える裏方として、観音菩薩・勢至菩薩役の所作の練習、菩薩面の着脱法・菩薩装束の着付け法の練習等、会式を迎えるまでに様々な準備をしていただきます。そして、会式当日には、様々な場面で会式全体を支えていただきます。また、会式が終わったのちには、菩薩装束の修繕、寄り合いの開催など、次年度へ向けた準備をしていきます。
現在、菩薩講では、菩薩講の現状と課題及び今後の菩薩講の在り方について、様々な角度から話し合いをしています。講員意識の高揚・伝統文化の継承を図るために、講の運営方法、寄り合いの持ち方、情報発信方法等々課題は山積ですが、世代を超えた意見交流ができることは本当に有り難いことです。
この寄り合いの中で、現在の家族形態の在り方、就労形態の変化等、様々な要因の中、平日(中将姫のご命日とされる5月14日)開催年の、練り供養会式への参加は大変難しい現況であるというご意見が出されました。これは仏事的行事だけに言える事ではなく、家族内、地域内の慣習や行事等に於いても、これまで当たり前の如く繋がってきたものが難しくなってきているというご意見もありました。戦後の高度経済成長を経て、飛躍的に日本人の生活は物質的に豊かになりました。しかし一方で、人と人との結びつきといったような、精神的な豊かさや心の豊かさについてはどうでしょうか。地縁社会から無縁社会へという言葉も、現代の一側面を表わしているのかもしれません。日本の各地域では、大切に護られてきた伝統・慣習・行事等が存続・継承の危機にあるものもあります。逆に、この様な時代だからこそ、その価値の大切さを再認識し、地元・地域の方々の思いにより、復興・再興・継承・発展されてきているものもあります。
このように考えた時、我々が受け継ぎ、次世代に伝えていかなければならないのは何なのでしょうか。私は人生を生きていくための拠り所となる信仰も、その一つであると考えます。歴史ある練供養会式の運営主体菩薩講は、正に信仰の証であり、これらを護り、しっかりと継承していきたいのです。菩薩講員であることは、ご先祖様から受け継がれた、有り難く尊い仏縁に浴されている証です。菩薩役という大役をお勤めいただく事は、時間的にも体力的にも決してたやすい事ではありません。しかし同時に、誰しもが勤められる役でもありません。菩薩講員として受け継がれてきた仏縁を大切にしていただき、大役をお勤めいただく事を切に願っております。
當麻の里に伝わるこの素晴らしい伝統法要を、その運営主体である菩薩講員皆さま方お一人お一人のものにしていくために、また、次世代への継承をしっかりと進めていくために、今出来る事を一つひとつ積み上げて参りたいと思います。